1-1:コーヒーのお膳立てをしてみる(前編)



さて序文で触れましたとおり、このエッセイではコーヒーもしくは喫茶店についてあれこれ語るつもりなのですが、
恥を承知で申し上げます。

かつてカレー屋でアルバイトしていた折、一週間と少しで首になった拙。
果たして絶望的にフードサービスに向いていない男が、もっとも盛り立ての難しいとされる喫茶店、
加えてその主戦力たるコーヒーについて語る資格が有るのか、と。

大丈夫、誰だって生きる資格なら持っています。
命を賭ければどんな困難な道も必ず開ける、ハズ!

相手を知るにはまず己から、木を見て森を見ずの精神で(少し違うか)
まずは、私が、貴方を、コーヒーでもてなすことにします。
絵に描いた餅といわず、このシュミレートに付き合ってみてください。



まず状況を設定してみることにしましょう。
このページにたどり着き、日本語で書かれたこの文章を拝見していると言うことは、よほど込み入った事情が
無ければごく一般的な家庭で生まれ育ち、たまたまstr家で与太話なり商談なりをまとめねばならなくなった。

そんな感じでいいですか?
まあ、大して面白い遊びも珍しい品も無い家だがコーヒーなら有る。
のんでけ。

だが果たして貴方がトルコからいらっしゃったのなら話は別。
1000年に渡るコーヒー文化と今は無きオスマン・トルコ帝国に敬意を表し、
イブリッシュで湯を沸かしたいところである。
もちろん口をつける順番は貴方、父、母、兄ときて私は五番目でございましょう。



場所が違えばもてなし方もまた変わらざるを得ない。
貴方と出会ったのは遥か太平洋を越えた大陸の西方であった。
ウエスタンハットを粋に被り、直径五センチはある太いロープを巧みに操るたくましい腕。
そんな貴方に私が用意できるものは丁寧にハンドピックで選別した豆をローストし、
麻袋に入れて持参するだけで。
ネルもペーパーも不要、ドリップなど無粋。
薬缶に水と銃底で砕いた豆をいれ、湧いたところの上澄みを飲む、黙って飲む。
あたりは荒野で沈み行く夕日はいまだ辺りに陽炎を写すわけですよ
ただし私は馬に乗れないから行き帰りは旦那の腰にしがみつかせてくれ。

私と貴方は山にいる。
標高3000メートルの頂上である、今度は分厚い雲の底から太陽が上ってくるわけです。
そんなご来光を拝みつつバーナーで沸かした熱い奴をすする。
行きの体力がこのシチュエーション最大の問題だが、
まあ無事たどり着けたのなら、帰りは命に代えてもごみはきちんと持ち帰ります。

私は今フランスの某海岸線にて貴方がたどり着くのを待って居ます。
きた!ついに来た!キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━.!
おめでとう、貴方ついにドーバー海峡を泳いで横断したよ、ボンジュール・モナミ!
私はミルクたっぷりのカフェオレをラージサイズのカップで差し出して、
いい加減グリースが流れ落ちた貴方の手をがっちりとつかみましょう。



また、貴方が置かれた状況も十分に考慮しなければならない要素。

正直二日酔いに唸る貴方にはコーヒーはお勧めしません。
脱水症状で死にいたる危険性がありますゆえ。
ブラックコーヒーで頭痛が治まるのは気のせい也。

また、万に一つも無い可能性ですが、貴方が死刑囚であるとして、
私が執行前最後の食事をオーダーを承るとするならば、正直におっしゃってください。
皆、ハンバーガーやフライドチキン、アイスクリーム等食べきれないメニューを望まれるそうですが、
残念ながら最後の晩餐でコーヒーを興じる方は少ないと聞き及んでおります。
素直にポリバケツサイズのコカもしくはペプシを用意いたしますので。
ああ、甘いものをお望みでしたら饅頭にコーヒーはそれなりに満足できるかと。

私の隣で寝て起きた!?
ダブルベッドで今起きた!?
モーニングコーヒー喜んで!!

───ソレこそ、万に一つも無い可能性ですな。
書いてて今猛烈にむなしい。



とまあ、このようにもてなしで一番大事なのは真心であるかと。
長々書いてしまいましたが、むしろ暴走してしまいましたが後編では本題のコーヒーをお出ししようかと思います。

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