イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが目を覚ましたのは自室の寝台。
 悪夢のような一夜が終わった後、体は生まれ落ちてからずっと背負っていた痛みから開放されている。
 だが、それこそ愛すべき従者を失った事を確信づける裏付けであり。
 先の見えない悪夢の始まりだった。

 床に足を下ろした、痛みはないが足取りは重い。
 体は軽い、ゆえに地に足がついていない。

 メイドたちはどうしているだろうか。
 今、自分はどのような状況にあるのだろうか。
 戦争はもう始まっているのだろうか、自分は最大の武器を失って、どのように戦って行けばいいのだろう。

 城の中は静まり返っている、少女が廊下を進んで行くと……。

 はたして、天井から紐がぶら下がっていた。
 構造は不明である、だが、其れは紐であり、垂れ下がっているのなら引いてみるのが世界の断り。

 イリヤスフィールは落ちて行く、こちらは確固たる奈落の果て、そこにあるのは。
 絶望など感ずる間もない最高に愉快な悪夢の根城である。


『オウ白き少女よ、おはようございます。
歴史の改変、運命の袋小路、アインツベルン地下帝国へよゥこそ!!』
 長いトンネルをくぐると、そこは謎の祭壇でした。

 開かれた岩盤の壁にはイリヤの背丈の何倍も有ろう七枚の写真が張りつけられている、それぞれセイバー、アーチャー、ランサー、バーサーカー、ライダー、アサシン、キャスター。
 未だ黒くつぶされている写真が3枚、一つは昨夜自分に牙を向いた義兄・士郎。
 フードをかぶった女性(だろう、おそらく)、そして一枚は、なぜか遺影になっている。
 推測しなくてもわかる、これはインタラプトSの肖像だ。
「目覚めはばっちりかね?ばっちりだろう!?
 出来れば君にモーニングコーヒーでも煎れて差し上げたかったが、何分計画の実行を早めざるを得ない事態に陥ってしまってね」
 何故ならば、どこからか聞こえてくる声に合わせ、太郎の写真その瞳が点滅しているからである.

「あ、あんたはっ!
どう言う了見で人の城を勝手に改造してるのかぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ハハハ、そうケチくさいこと言うなよ」
 嘲笑う写真、その胡散臭いツラをにらみつけてイリヤがいう。
「とっとと出てきなさい!昨日の落とし前つけてやるから」
「おぅ、そいつは恐ろしい。
 だがすまんな、何分私は今横浜の米軍基地に居ます」
「!?」
「というわけで、しばらくメイドさん達と遊んでいてくれたまえ。
そちらにも仕事があるし、じきに戻る」

 ブツン、とスピーカーの電源が落ちる音がした。
 未だ頭に血が上っているイリヤ、地下は元より頭上にそびえる城の隅々まで響き渡るような声量で叫ぶ。
「セラッ!リズゥーウ!」
「はいイリヤスフィール様」
「どうした、イリヤ」
 まるで忍者のように背後に立っていた二人のメイド、気配を感じさせないその存在に少し驚き後ずさるイリヤ。
「ど、どうしてあんな奴に城あけわたしちゃったのよ!」
「申し訳ありません、ですが傷ついたイリヤスフィール様をお連れいただいた手前邪険に扱うわけにも行きませんで」
「城、改造し始めたときも、太郎強いから私達逆らえなかった」
 至極まっとうな二人の意見、でもお嬢様はそんな事で納得したりはしなかった。
「でも、あいつの仲間は私のバーサーカーを倒したの!
いわば敵なの?わかってる?」
「でも、イリヤ人間になった」
「はい、どういう手段かは存じ上げませんが、確かにイリヤスフィール様は人間になってしまわれた。
令呪もすでに失われておいでです。
 我々はもはや、此度の聖杯戦争の部外者になってしまったのです」
 リーズリットの手には、雑巾になった天の衣。

「イリヤ、らしくない」
「何がよ!」
「過ぎたことをうだうだ言っても仕方がない。
ならば、この状況、楽しむべき」
「どうやって!」
「一先ずは、太郎様の帰りを待つのが得策かと。
 おのずと道は開かれましょう、所でイリヤ様、本日は来客が多くなるとの事です。
 主らしく各々方を接待するのがよろしいでしょう」


 そして、太郎が帰る。
 傍らには黒いドレスを着た少女がいた、可憐に裾を摘み上げ、礼をする様はなかなか様に成っている。
「うっ……」
 だがそんな彼女を見て、少したじろぐイリヤ。
 物腰やその美貌に対してではない、そんなものは自分自身持っている。
 なにか、こう相容れない雰囲気というか、毛嫌いの元というか。
「ただいま、早速だが紹介しよう。
 私のマスター、夢魔のレン君だ」
 彼奴の使い魔であろうか、だがしかし、魔力のラインは一遍足りとてつながっていない。
 そんなことを感じとって、いまだ魔術師として最低限の技量はあると実感した。
 もっとも、魔力は以前と比べるまでもないのだが。
(そう言えば、いくら年月を重ねた夢魔とは言え、人間が使われる立場ってのはどういうこと?)
「レン君は私の計画に賛同してくれてね、本来の主人と遊ぶ時間を裂いてまで聖杯戦争の関係者達に極上の夢をプレゼントして回っていたのだよ、いや、ご苦労ご苦労」
 左手に馬鹿でかいケーキの箱を持ち、空いた右手で水色の髪を撫で回す太郎。
 だが、彼女は少しむっとして、太郎のほほに爪を立てた。
「うわ痛て!すんません、イキガッテマシタ、イキガッテマシタ!」
 格子状に引かれた赤い傷痕、少し涙ぐみながらケーキの箱を持ち上げる太郎。
「と、言うわけで。
 彼女をねぎらうために庶民ケーキを山ほど用意した。君もお茶にしよう、イリヤ」
 イリヤの後ろでは、その箱にセラが熱い視線を送っている。

 急遽祭壇に設営されたそのお茶会の席。
 ここは何に使う場所なのかとイリヤが問うと、祭壇は祭り上げる何かをささげる場所だと太郎が言う。
 何をささげるかはまだ言うつもりはないらしい。
 そんな台に人数分の紅茶、イリヤの席に二つ、太郎の席に一つ、そしてレン嬢の前には数え切れないほどのケーキが置かれている(ちなみにセラの顔がホクホクだった事から、その箱の中には幾ばくかのあまりケーキがあったと推測される、どんな箱だ?)
「ちなみにレン君、庭の仲間達は元気でやっているかね」
「------」あなたがいないとへいわでいいの
「がびーん」
 良くわからない四方山話で盛り上がっている二人。
「所で、夢を見せて回ったってどんな?」
 仕方がないので会話に割り込んでみる。
「そうか、君の元にはいかなかったのだね?」
「------」ごめんなさい、ここはなれているから。
 目に見えてしょんぼりするレン、手をわたわたさせてフォローするイリヤ。
 自分で言うのも難だが、無駄に気を使っている気がする。
 接し方がわからないのだ、敵意を剥き出しにしているならこちらも威嚇し返せば良いものを。
「まあ、あれだ。
今回のサーヴァント達の、過去をな、皆に知ってもらっていたのだよ。
敵を知り、己を知れば百戦危うからずといってだな、互いに相手を深く知れば戦争にも二の足を踏むってもんよ」
「それ、前述と後述で激しく間違っている気がするわ」
 ばつの悪そうに紅茶をすする太郎。
「------」ほかにも、きにいったおにいさんにいんむをさーびすしたの。
「「いや、しなくていいよそんなサービス!」」
「------」ついでにおんなのこがねむっているべっとにおしこんでみたの、きっとおたのしみだったわ。

 ------其れはさぞ、ひどい目にあっているだろう、アーチャー。
 自爆でリタイヤなんてことになっていなければいいが。

まるで娼婦のような色気を漂わせる幼女を前に、さっぱり盛り上がらないお茶会は続く。


 そんな微妙な空気を打ち破るかのように、ローブ姿の怪しい女が現れた。
「は〜い、イリヤちゃん、点滴しましょうね〜」
 インタラプトS、ライダーである。
 写真で見たとはいえ、もちろんイリヤは初対面である、当然拒否した、いやがった、ムズがった。
「まあそう言うな、君の体は生まれ変わったばかりだからね。
 免疫系が低下してるのだよ」
 だがしかし、彼女が手にしている真っ青な点滴パックを体に投与したからといって、けして人体に良い影響を与えそうには思えないのである。
 一体何なんだ、このマッドドクター。

 だが、そのとき。
 頭上で何かが突っ込んでくる音がした。
「恐らく、本物のライダーが桜嬢を取り戻しにきたね」
「やだ、その言い方まるで私が偽者みたいじゃないですか〜」
「そりゃ、だって私達は偽者だろうに。
 イヤなら帰ってもかまわんぞ、おまえさんがいると唯でさえ少ない出番がさらに減って行きそうだ。
 まったく、こちとら出番増やしたくてこっちの話にも絡んだというのに」
 ぶつくさ言う太郎を尻目に、箒を抱えて出口に向かうライダー。
 どうやら迎撃に行く模様。
「桜嬢の具合はどうかね?」
「いま、この奥で休んでもらってます。
 上の騒ぎが一段落つく前に、下準備終わらせといてくださいね?
 料理は手際が命ですよ〜」

 席を立つ太郎、二人ともゆっくりしていてくれと言い残し、祭壇を後にする。
 番狂わせにもなかなか手間が要るものだ。
 とりあえず残されたイリヤは、苦手な雰囲気の客人に、紅茶のお代わりはいるか問うのである。


『サプライズ・パーソン』out
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