君は今、新しく目を覚ました。

〜tale〜Shingetutan Tsukihime Prologue


 不夜城に背を向けて、太郎が行く。
世界中がきな臭い夜、あらゆる暴力と混乱が折り重なり、破られることのない機が織られる惑星。
蜂の巣を突付いたような騒ぎは今宵、どこを切り取っても変わらない。

 だが、その中にあってひときわ輝く存在がいる。
いままで絶対に物語の中心に立てぬまま、端でその有様をさらすやつ。
メジャーデビューをコバンザメのように果たした、たよりにならぬいかすやつ。
だが、今はただ、そいつに当たることなどありえぬスポットを当てることにしよう。
なぜなら、それはこの平行世界を語る上で欠かせぬブロックであり。
悲観的な運命が逆転される瞬間を、証明する小片に成る。

 あ〜まあなんだ。
退屈はさせないだろう。
本来ならば第一部と第二部の合間に小休止として組み込むべき(組み込みたい)エピソードなのだが、
そのエキセントリックな演出と脚本からコアなファンを集めたとされる『黒ワニ編』のようにだな。 

 Fateまったく関係ないけど面白い。


 アルトルージュ・ブリュンスタッドは白い犬を従えてアインツベルンの森を行く。
それはありとあらゆる霊長にとって明確な死を意味するところである

 目標はもちろん最奥部に位置する古城、すなわちほうっておけば酒と歓談とほんの少しある混乱をむさぼっている人間たちが、悉く荼毘に伏される。
 正直どんな表現を使おうとも、漢字一文字であらわせる決定事項、あるいはこの森を守護する鉛色の巨人が健在ならば、ほんの少し、ほんの少しだけ先送りに出来る事柄であったかも知れぬ。

 基本的に、この一組は人殺しが上手すぎるから。
 手足が一そろいそろっていて、人語を解し、二足歩行で歩く輩には荷が勝ちすぎるのだ。

「んん〜んんぅ〜ううぅん〜」
 鼻歌も軽やかに、外見十四歳の少女が大きな犬を連れて歩くさまはおだやかな散歩を思わせるのだが、
 その通り名が血と契約の支配者であったと心身ともに悟った暁には一生涯笑える。
 その一生涯すら一フレーム(60分の1秒)ないと知ったときはあきれも果てもないのだが。
 果たして、無い物尽くしである。
 闇夜に溶けるそのお召し物ぐらい、黒い女だ。

 その歩みを止めるものは存在しない。
彼女が求めるのはまさにその人なのだが、今際をにぎわす刃の怪物すら、制し切るかは怪しい。






 ------ゆえに、だからこそ。
その前に立ちはだかるのはちっぽけな己の存在意義に真っ向から挑むバカではないかと、思うのだ。

太郎の出番のその前に、
紹介したい奴が居る
その男は、辛い。
存在自体が文字通り、辛い。
一人と一匹に立ち向かったのは、剣でも弓でも槍でもない。
人類が生んだ至高の料理!!


 スパイシーな香りに顔をしかめたアルトルージュ、主の不快を感じ取った使徒、プライミッツ・マーダーは遠当てに視認も出来ぬ一撃を見舞った。
確かに、熱いほとばしりを前足に感じる。
だが、付着していたのは血ではなく、主の不快のその元凶。
ぬかった、道理で手ごたえが妙にぬかるんだ!
己が失態を恥じると、程なく暗がりからその敵が姿を現した。 

「あ〜らあら、せっかくのご馳走が台無しよ?
……まったく犬みたいにがっついちゃダ・メ、あんた犬だけど」

 カレーが居た。
カリー・ド・マルシェが、其処に居た。
人類の天敵に相対する彼はまさに奇跡、ヒトを守護する抑止力が暴力以外を選んだ瞬間。
祖は唯人を捨てすでに使途、なれど彼女に立ちふさがることこそすべての価値観が崩壊する目もくらむ衝撃。

「空櫃の、キルシュタイン。
あなたなんでこんなところに居るのかしら?」(死にたいの?)
ああ、主よ、あなた様はきっと口も開きたくなかったことでしょう。
悔恨が白い魔犬の胸中を満たす。
だが、目の前の男は当たり前のような口調でアルトルージュに口を利く。
「やぁねぇ、いわば冬木は今、世界の中心なのよ?
顔が広いと世間で評判の私が訪れないわけないじゃないの。
もっとも、北海道には拠ったわ、噂以上ねスープカレー」
「厚顔無恥も相変わらずなのね、私の耳にも入ってくるくらいだし」(死にたいの?)
ああ、主よ、雑談は雑談です。
忠犬は一刻も早く目の前の男を始末したかった。
だが、会話の腰を折るわけにも行かず、ただまんじりと雑な談を垂れ流す男をにらみつけるばかりなり。
「さて?私の耳にはアルトルージュ派の動向なんてトンと耳に入ってこないけど。
噂のエミヤシロウを傘下に入れて今度こそ千年城おとしでもたくらんでいるのかしら」
カイゼル髭をなでつけながら、まるで関心がないような口調ではある。
ただ、それは彼女の深奥を探っているかのようでもある。
「そうね、そのためにこんな片田舎に足をはこんでいるのだもの。
まずはこの町を、次はこの国を、生まれ育った国だもの、皆殺しにすれば顔を見せることでしょうよ」(死にたいの?)
「そんなやり方じゃあ、反発するくらいわかりそうじゃない。
少しは人里に降りてきたら?下手すりゃ一世紀ぐらい人間の生活、見てないんじゃなくて?」
「つまらないわ、そんなもの。
最近は本当にひ弱な人間ばかりだもの、単一で町一つ潰せるだけの輩なんて今では指折り数える程度よ?
技術ばかり進んできて、肝心の個の強さを鍛える概念がないの」(死にたいの?)

 話しながらも苛立ちは募るばかり、アルトルージュは不可視の力を用い幾度となくカリーに攻撃を強いる。
だが、どれも目前で弾かれる、27祖に名も連ねぬ雑魚が、生意気にも。
魔犬ののどが低くうなる、あの半端もののコバンザメごときが、何故にわが主の攻撃を防ごうか?
「……けれど、あなたは少しばかり己を鍛えているようね。
27祖への険しき路、まだあきらめきれぬよう。
もう三百年、もしくは人里百も潰せば、契約を考えてあげなくても、よくってよ?」
蜜のように甘美な誘惑、だが言葉に乗せるはあからさまな嘲笑。
血と契約の支配者、その通り名はまさしく彼女をあらわすにふさわしい。
彼女の口からまろび出る御言は基本的に無理か死の二択を押し付ける、むしろそれだけが彼女の生き様なのだが、
今回ばかりは、単なる冗談であろう。

おまえもう、ここで死ね、と。
人知を超える猛威を、空想にて具現する。


 だが、それを一身に受けるはずのカリーは特に恐怖を感じることもせず。
襲い来るそれらを、子供が投げつけた石ころのように見下している。
「27祖?
そのようなぞんざいな関係に、もはや欠片の未練もない」

 空気が一変する。
魔獣も病魔も憐憫も、彼に罹るすべての厄際すべてが霧散し、あるいは粘性を帯びた泥に姿を変えた。
「フム、基本骨子の想定が甘い、すわ、とても甘口だ。
こんなものはカレーとはいえぬ、半端な空想ではまろやかさ程度の隠し味にもならぬと知れ」
その泥を指先で掬い取り、舌に載せて検分する。
異常である、なんだかとてもこの場が異常である。
立ち込める殺気すら粉雪、いやさ花粉の様に変わってゆく時分、真面目に殺しあおうと思えば思うほどたしかな実態を持った愉快に成り下がるここは魔性の森か。

 嗚呼、それにつけてもカレーくさい。

「しかし、三原色『黄』の称号をもってしても、私の心は揺れ動くまい。
今最もときめくパーソン、愉快な仲間の一角に加わらんと彼の元を訪れたはいいものの」
その細い目を見開くカリー、そこには万物を揺るがすほどの怒気・鬼気をはらませた瞳があった。
それはまるで魔眼のように、垣間見た世界を、黄土に煮えくり替えす。
「カレーを作っただけで厨房から追い出されるとはおもわなんだ。
この料理なくして、何の宴か!」
その理不尽な怒りは、二人の人外をびびらせるに十分。
事情は詳しく知らないけど、まずは少し落ち着こうよ、あんた今日は少しおかしいよ?
そういった思いを覆すかのように、カリーの独白はつづく。
「嗚呼、虐げられた。
この恨みいかにして晴らそうか、まずは貴様らの亡骸を手土産に奴等の立場の上に立ち。
三日三晩カレーの風呂に浸けてくれようそうしよう。
あの豊満なオパーイが蕩けるほどに、この味あの身に堪能させん!」

 はたして、カリーの敵意のベクトルが、二人のほうに向けられた。
気を取り直したようで恐縮だが、愉快空間へ確かな殺気を確立する霊長の殺人者。
最早侮りなど一部もなし、プライミッツ・マーダーは一撃で眼前の敵を亡き者にせんと慎重に間合いを図る。
相手の武器は一目瞭然、ナカナカに侵食固有結界。

 犬カレー、真っ平御免である。
だが、しかし。


 夜闇を切り裂く一陣の光、光縄が魔犬の前足を絡め取る。
踏み出すことも、跳躍することもままならぬ。
たまらずきゃいんと一声鳴くと、その場に無様に転がった。

 一触即発(?)の戦場に割って入ったその男。
がさりと茂みを掻き分けて、三人の視中にまろびでた太郎。
「おおぅ、まぶし……」
どうやら眼がくらんでいる模様、何故だ。
兎に角回復まで少々お待ちください。

「前置きなしに所有物の前足を刈り取ってくれるなんて、とんだ無作法ね」(死にたいの?)
「なに、再開の、挨拶代わりの真祖ビームだ、追いつけるのはヒトの神経伝達物質のみ。
何も恥じることはないぞ人外ズ」
減らず口を廃棄物のごとく、実にナチュラルに垂れ流す口。
カリーは見た、羨望のかんばぜを伴ってやつを見た。
その不吉過ぎる金髪。
白のタートルネックの上から額ランを羽織り、顔にはメガネ。
右目は赤で左目は青、二つの宝石を収めるその容姿は美形なんだか凡庸なんだか。
素敵なりオッドアイ、しかしそれ以上に付け加えるべき感想は、

「アウトレンジから駄犬を一撃。
その名も素敵、音に聞こえたインタラプトS・セイバー、やっぱ人知を超えた変態よタロウ」
「おっす、オラ太郎。
微妙に蔑んだ合いの手をありがとうカリー・ド・マルシェ。
貴様など『爪でこすったらなんかカレーのにおいがする付録』をお供に城の物置で引きこもってなさい」
 バカ集結、ここ冬木の地で百万回世界が滅び新生しようとありえぬ最低対最悪のタッグマッチが今まさに開かれようとしている。
見返りなし、己が力をもって最強を証明する必要なし。
不毛な戦に何故自分がこの場に居合わせたのか、必死に頭を抱えるアルトルージュ・ブリュンスタッド! 

「人里に感化されすぎよ、まったく持って理解に苦しむわ。
お願いだからブリュンスタッドの名前をこれ以上汚さないで頂戴、アルクェイド」(死にたいの?)
 姉を見下げる妹、西暦以前から恨み骨髄の間柄。
だが、彼女は解っていない、この数分間の会話でちっとも学習していない。
この次元において他人への侮辱は、それ以上の珍態として己が身に返される事を! 

「さあ、速く噂の『衛宮士郎』の居所を教えなさい。
そうすればそれ以上の速度をもって貴方達をめいふのはひぇまへほふっひぇあへふぁ」(ひひはぃほ?)
 数十メーターの距離を、瞬きのうちに詰め上げ、音速の衝撃波を伴った太郎の人差し指が、
アルトルージュの、その、鼻の、穴にだな……第一関節まで。
「君は一つ、思い違いをしているようだアルトルージュ。
私はアルクェイド・ブリュンスタッドではない」
そのまま手首を返し、アッパーカットの要領で肘から上をを高く天に指す。
シルエットこそ格好は良い、まるで必殺、しかし実状は所詮鼻フックだ。
「すてきぃ〜、それでこそ太郎。
最強をあえて鼻で笑う姿勢、最高よ!
さあ、私をインタラプトSに入れて頂戴、きっといい仕事をするわ」
「それは御免こうむる」

「何故?何故なの!?
私は愉快よ?ある意味世界でもっとも好き勝手な存在。
貴方の配下に加わるに、何の至らなさがあるというのだろうか」
「そう、それよ。
確かに君の立場の危うさを鑑みて、原子操作のコツを伝授したのはこの私だ。
だが、君の能力では奥義(ジ・アブソリュート・ハッピーエンド・ボルト)足りえん」
カリーは驚愕した、彼はこの超抜能力こそ、世界を救うものと信じているのだから。
「時にカリー、この夜空を何と見る」
「そうね、真空の苛烈さを鑑みるに本場インドのダールかしら。
天の川はさながら彼らの誇り、ギーね」
「では、この地は?」
「ふくよかな大地、実にいいわ。
欧風だろうと日本式だろうと、大地の恵みそのままのカレーにはかなわない。
野菜ごろごろ、肉もごろごろ、人の悪意が折り重なった幾重の辛味が味の骨格となり取りまとめる」
「では海は?われら生物のすべてのゆりかごは」
「シーフードカレー」
嗚呼、何とすばらしき世界!虚空すら自分の目には一家秘伝のガラムマサラ。

しかし、そこでカリーは思い知る、自分の限界を、よだれをたらしながら。

「ほらみろ、そこで完結してしまっている。
世界はカレー、それで君個人は救われた、だがそれを開放しても救われるのは欠食学生ぐらいだ。
もっと眼で見て、肌で感じるぐらいのハッピーエンドを行使する、それがわれらの矜持」
「待ってカレーよ?世界を救えるわ」
「辛いだろうが!フランス人に食わせてみろ。
三日とたたずに核が放たれる、そうカリカリさせんな」
そこは盲点であった、彼らは体質的に刺激物を受け入れられないのである。
まさか、自分の価値観が、世界を滅ぼすきっかけになろうとは。
「何と脆弱なり人類!」
「まあ、なんだ、いいセン行ってるんだがなあ。
やっぱカレーだからダメだっつーか」
アイデンティティがクライシスしたオカマを哀れむ太郎。
だがそれゆえに、彼にも珍態は迫るのである。


 太郎は、体を震え上がらせた。
むこうずねが痛い、何がしかに噛まれているような痛みである。
「プ、プライミッツマーダー!すまん、すっかり忘れてた」
やっぱりか、と悲しそうな視線で霊長の殺人者。
悲しみを怒りに代え、すね毛に包まれたそれを食いちぎりにかかる。
まるで万力のような締め付け、カレー問答などしている場合では、なかったのだ。
「「「!?」」」
 この事態、解決は一つだ。
足を噛み付かれているならば、無闇に振りほどくよりも下半身を除装してしまえばよい。

 Bパーツ、もしくはレッグフライヤーから解き放たれた太郎。
腰から先をジェット噴射に換装し、天高く舞い上がらんとする太郎。
さしものガイアの怪物も、こればかりは口をあんぐりとあけて見届けるほかにあるまい。
「ハハハ、なんだなんだあほずらぶちこいて。
君たちも使途なら体の一部を切り離すぐらい朝飯前だろう」
だって、あんた飛んでるゼ。
かつて飛翔する個体なら吐いて捨てるほど居たが、空中静止する輩はついぞお目にかかったことがない。

基本的に、この一組は人殺しが上手すぎるから。
手足が一そろいそろっていて、人語を解し、二足歩行で歩く輩には荷が勝ちすぎるのだ。
逆に言えば、
手足を切り離して平然とし、人語を解さず、ホバリングで動く輩は荷が勝ちすぎるのだ。

太郎はあっけに取られるプライミッツ・マーダーの首根っこをつかんでカリーにウインクする。
もちろん引き手には鼻フックしたままの黒姫。
「あんた!どこへ行くの!?」
「どこまでも、君が望むのならば銀河の果てまででも」
ちょっとうれしそうにカリーの問い。
粋に答えた太郎、やる気は満々である。
「はんは!ひんへんはほはほほへふのへふは」(ひにはぃの?)
「飛べるさ、どこまでも飛べ」
今ここで、真の名を開放し、音に聞こえた奥義を行使しようとしているのだ!
------月姫2、完。
二人の使途、出番はタイプムーンRPG(仮)まで持越しである。

「まあ、仕事も詰まってるし、月までこいつら置いてくると皆に伝えれ。
ところで、私個人に成層圏突破能力はないのだが。
まあ、粉塵爆発でもバスターキャットの代わりにはなるかな?かな?」
粉塵爆発、まさか!
あせるカリーも止める間なし、口から火を吹く太郎。
呼吸には無尽蔵のスパイスが混じるゆえ、ゲヘナフレイムの威力は倍増だ!
「行くぞ、翼にこだわらずとも格好がつけられることを、監督の嫁に知らしめてやる」

「ガラムマサラに火をつけるな!」
「・・・・・・ルクゥゥゥゥウウウウ・ロケットォォォォォォォ!!」

名はカリーの絶叫に、そしてジェット噴射の轟音にかき消される。
だが、カリーはそれに負けじと切実に、この世界最高の脇役に問いを投げる。
「でばんは、出番はどうやったら増えるの〜!」
「知るか!お前も猫耳になれ……」


そして、その夜すべての霊長は、天に昇る一条の飛行機雲を見ただろう。
それは地球最後の希望の星、さかしまの流れ星に各々純な思いを乗せた。

だが、唯一人、正義の味方にとってそれは狼煙。
行方のつかめぬ彼へ向け、太郎が、己が身で示した戦いの合図。
敵は冬木だ、今すぐ戻れ。
将軍様を足蹴にしながら、確かにそのメッセージを受け取った。
衛宮士郎の、戦争が始まる。

『君はみたか絶救想覇:うなる肉球!地球爆発五億年前』out
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