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夢を見た。
はじめは草原を駆け抜ける一人の少女の夢。

彼女は甲冑を着込み、剣に風をまとわせて幾多の敵兵に対峙し。
いくつもの命を摘み取りながら故郷へ愛を示した。
けして報われない願いと内に秘めた想いと裏切りが待つ故郷へ。
おのれの人間性を踏みつけにしながら目に見えぬ愛を示した。
少女、未だに望郷にいたらず。

その少女、名をアルトリア、人呼んでアーサー王。




夢を見た。
次はアイルランドの光の獅子。

誰からも好かれる青年の人生は、神から人へ主役の転換する時代とともに過ぎて行く。
幼馴染との殺し合いを強いられた。
息子が自分の命を奪いに送りこまれたこともある。
家族が、友が次々と青年の首を狙う、苦痛だった。
それに対するため、一つ一つ、己が誓いを破って行くのは絶えがたい屈辱であった。
狂気の果て、何度許してくれと呟いたか。

最後はけして倒れぬよう、己が体を木に括り付け、
クーフーリン、享年27歳。




夢を見た。
次はギリシャの神話を遡る。

その男、神と人の息子。
実の子を殺し、贖罪として12の難事をこなしてきた。
だが彼の生は戦から逃れられぬ定め。
その全て、女神の嫉妬からの策略であったのならば、狂う方が幾ばくかの救い。

現代では語る端から虚構になるほどの追走曲(カノン)
それでも、最後は人間として生きることを選んだヘラクレス、掛け値なしの英雄。




夢を見た。
母になりきれなかった女の話。

過ぎ去りしそれは、王子と魔法使いの恋物語。
過ぎてみれば、そこに浮かぶは夫の不義から淀んだ澱(おり)。
愛した二人の子供に手をかけて、泥棒猫は炭にしてやった。
水に混じった不純物はもう取り除くことはかなわない。
復讐に生き、死んでいった女の末路を誰が知ろうか。
愛されれば良かったのだ、誰よりも一人の男に。
彼女は恋をしたのだから。

自称魔女、それでも美しきメディア。
悲しみが彼女を後世まで語り継いでいる。




夢を見た。
怪物に仕立て上げれられた乙女が居る。

美を競ったから、末に呪われた、などと後世の史述など勝手なものだ。
二人の姉妹と生き別れ、見るものは可憐な花でも石に代わる。
死して尚、仇の腕に収まって、遥か銀河の片隅で、星座の一部と成った私の首はこの星を見つづけて居るという。
ここまで遠ければ、石にする事も無いだろう。
飽くなき変化をつづけるこの宝石を。

それでも、エウリュメデューサ。
天馬にまたがり、この星を翔け続けたかったに違いあるまい。




夢をみた。
武芸に生きた男の話。

特に何も無い、唯一つ言えることは。
何も無かった、それだけで語るに足る悲劇。
燕を切り捨てるだけの暇が、ゆっくりと剣技以外の道を切り捨てていった。
それも、自分の手で。

佐々木小次郎、そのようなも者はこの世に生まれてはいない。
祭り上げられるほどに、彼の生きた証は変質を続ける。




夢を見た。
これまでの中でも群を抜いて最悪な奴だった。

血と硝煙がある、欲望と裏切りがある。
暴力と情欲がある、怠惰と傲慢がある。
ゆっくりと世界が壊されていった、狂って行く世界を怖がる当事者が居た。
被害者が加害者を責めた、加害者はもちろん被害者を責める。
死にたくないと血肉を食らう怪物が居る。
血肉を分け合う兄弟たちが一欠けらのパンをめぐって争った。
愛し愛された、それこそが最大の悲劇に変わった。
足を踏み出せば、そこに無限の地獄がある。
埋め尽くそう、この場を無限の剣の墓標で。

悪意をたらふく吸ったスポンジは、干からびても二度と潤うことは無い。
笑顔を、二度と見せることはあるまい。

最後は死刑台、英霊■■■はゆっくりと十三段をふみしめて、
罵声を共に、その首を縄に絡め------


私は見ていられなくなって、目を背けてしまいました。
そこには黒い猫が座っていました。

『        』------目をそらすな


 遠坂凛が目を覚ますと、生涯二度とないだろうと想った事態が出迎える。
 粗相をしてしまったのか、と絶望した。
 それはもう、絞ればバケツが一杯になりそうなほど水分を吸い込んだシーツが彼女にまとわりついていたのだから。
 それはもう、べったりと。
 だが、不思議と体が冷えてはいない。
 それは、防寒の役目をまるっきり果たしていないというのに、だ。

「……えっく、えっく」
 凛の横で、何かがしゃくりを上げた。
 視線を向けると、金色の糸が束になって彼女の横にある。
 それはもう、特徴的に飛び跳ねた奴だ。
「おきなさい、セイバー」
 揺り動かすと、しばらくもぞもぞしつつも覚醒は鮮やか。
「も、申し訳ありませんマスター。
番を張るべき従者が主と同じ床で熟睡しているとは!」
「いや、いっしょに寝ようっていったのはアンタ」
 掛け物を跳ね除け、萎縮するセイバーのほほを引っ張ってやった。
 ぬるっとする、恐らく泣いていたのだ。
 だとすると……
「あんたも見たの?あの最高に過積載な夢を」
「はい、本来サーヴァントは夢など見ないものですが」
 冬の寒さが身にしみた、汗でぐっしょりぬれた寝巻きもそれに便乗する。
「映画館に金を払うのが馬鹿らしくなるわね」
 二人は無理に笑う、確かに二時間ノーカット、金や演出に糸目を付けず再現された映画を、七本梯子したようなもの。
 臨場感もひとしお、史実その場に立って英霊たちの生涯を追いかけた。
「あんたの夢も見たわ、セイバー」
「……それは、つまらないものを」
「ベッドの上でもじもじしないの、変に思われるわ」
 その、変に想うだろう男を捜して視線をさまよわせる。
 変に生真面目なあの弓兵は、霊体と化して我々を守ってくれているのではないかと。
 姿は見えず、唯、その場に居ることを感じる、やはり見ていたのか。
「さ、昨晩は例外よ!
しょっちゅう怖い夢見て泣いてるんじゃないからね!」
 空中に向けて照れ隠しに怒声を浴びせる。
 だがしかし、横のセイバーが凛の袖を引いた。
「凛、私と反対の位置をごらんあれ」

 みてみた。
 今日の夢見が悪かったのは、枕の所為であったわけだ。
 こんな筋肉の塊を敷いて寝れば、そりゃあ安眠できるはずなど無い。

 うなる拳が、弓兵への目覚まし代わりになった。


そんな ゆめの おわり

『川流』over
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