------「必殺仕事人伝説。聞いたこと、ありますか?」------
『MOMENT』:本多孝好


指が月を指すとき、愚者は指を見る:2


「言峰綺礼!前回のアーチャーのマスターが、なぜ今も生きている!」
突然のセイバーの絶叫に、一瞬呆然と顔を見合わせた二人であったが、
彼女の口走った台詞をかみ締めて、セイバーに一応の確認をする。
「セイバー、ひょっとしてあなた、前回の聖杯戦争に参加した?」
「はい、今から十年前、確かにこの地に現界しました」
凛は、今度はある種の確信を持って、綺礼に向き直る。
「じゃあ、私のお父様を殺したのはアンタ!?」
「いかにもその通りだ、事のほかあっけなくだまし討ちに合ったな」

怒りに身を任せ、拳を振るう遠坂凛をひらりひらりとかわすと、一応の妹弟子を見向きもせずに、
二人のサーヴァントに話を続ける。
「……そこのセイバーに発破をかけるようなことを言っておいて難だが、
今回の聖杯戦争は一時中断する」
「くっ、このぉ!」
「中断だと?
この期に及んで何を言う?サーヴァントは確かに七人そろった、つい先程、マスターが一人脱落したがな」
少女二人は憤慨し、言葉も出ないのだろう。
彼女達を代弁し、あざけるようにその言葉を反するアーチャー。
「マスターが脱落した、言い返すようだがその言葉は語弊がある。
マスターなど脱却した、というのが正しい」
「そこに直れ言峰綺礼、くそっ、一回殺させろ!」
もはやなりふりかまわぬ様相で、綺礼を捕まえようとする凛。
だが、神父は欠片も動じない。
「そうだ、衛宮士郎は戦争を排除するために動き出した。
なぜ従者の手を借りる必要があろう、あの恐るべき正義の味方が、お前達を悪と決め付けたのだ。
この地で殺し合いなどはじめてみろ、横合いからとって食われるぞ!
戦火など起こらない、出会ったが最後、どんな手を使おうとも、あの男は諸君らサーヴァントを英霊の座に返す。
マスターなどお構いなしに、最悪明日にはこの地に平穏な日々が帰るだろう。
聖杯などあたかも無かったかのように、さわやかな朝が……訪れてしまう」
------納得はいかないが、この男は、衛宮士郎を恐れている、なぜだ。

「とにかく、今後の手を一考する必要がある。
あくまで此度の戦争の監視役としてな、諸君らも勝手な行動は控え、次の指示が有るまで待て」
いいかげんうざったくなったのか、凛の背中を一蹴すると、根城に向かってきびすを返す綺礼。
したたかに打ち付けられ、うめきをあげる凛を横目に------

アーチャーが、立ち上がった。

「解せんな、あまりにも解せん。
あのような小僧におどおどする理由も無いし、お前に命じられるいわれも無い。
監査がそのような及び腰では困るな、いっそこの場で切り捨てて、新しい監視役を立ててもらおうか」
いつのまにか、両手には一対の剣が握られている。
その顔は怒りと理不尽にゆがめられている。
前者は主を足蹴にされたことと鑑みられるが、後者にいたってはこの場にいない衛宮士郎の影に対してか。
去り際に思い切り喧嘩を売られたことを思い出す。
「殺すか、それもやむなしだ。
いずれ衛宮士郎に刺し殺される運命だ、悪と決め付けられ滅ぶよりも、師の仇として凛の手の者に
殺されるほうが多少の納得も行く」

存外聞き分けの良い言峰綺礼、刃を構えるアーチャーに対するも、構えのひとつも取らない。
だが、吹き付ける風に乗り、かすかな喧騒が響く。
横を見る、そのまま視線は空を見る。
ここからは遠くわずかにしか見えないが、深山の上空で、何者かが戦っている!
片方は火球を飛ばすフードをかぶった者。
片方は天馬にまたがり電光を走らせる影。
「アレはキャスターと、ライダーか?」
------視線を戻すと、すでに神父はいない。
気が削がれた。
ため息を一つつくと、セイバーに助けおこされた凛の安否を気にかける。


「ああもう、あいつ絶対ころしてやる!」
二・三度その場でえずくと、ようやく上半身を起こした凛。
父の祈願を果たした後で、仇をとると堅く心に誓うのであった。
「とにかくどうする、凛。
衛宮士郎の足取りを察するに、恐らくあそこの二人を止めに入ったと思うのだが……」
凛もしばらく上空を見やると、従者の提言に一つ頷き帰路を取る。
------だが、その前に。
「セイバー、あなたはどうするの?」
「はい、私としてもあの男の動向が気になる。
なんとかこの世にとどまりつづけ、観察したいところではありますが……」
行く当てが無いのだろう、その場でうなだれるセイバー。
「じゃあ、決定ね。
私と契約しなさい」

「凛、それはつたない!」
「そうだ、マスター。
いかに君が並外れた魔力量の持ち主としても、二人のサーヴァントを抱えるのは無理だ」
サーヴァントはとにかく魔力を食う存在だ。
その英霊を象徴たらしめている必殺の武器、宝具を使うにしても、ガソリンである魔力が無いのであれば行使はできない。
たとえ、聖杯から呼び出され、それのバックアップを受けられるにしても、だ。
二人の役立たずを抱えても、戦いはできないのだ。
「だーいじょうぶ、私には奥の手があるから!」
凛は、懐から首飾りを取り出した。
トップに大きな宝石があしらわれた一品である。
だが、その価値をたらしめているのは、中に封じられた魔力にこそ、ある。
「す、すごい魔力量だ!」
「でしょ?何せ十年分、一日も欠かさず私の魔力を溜め込んでいたからね」
そのストックを使えば、二人の従者を抱え込むことも無理では無い


だが、アーチャーは呆然とその手の中でゆれる宝石を見据えていた。
「なに、アーチャー面白くない?
まあ、結局最後は聖杯の奪い合いになるからね……」
「そうですね、私も、聖杯をあきらめるのは、その……」
語尾が下がって行く女性陣、だが、気をとり直したかのようにアーチャーが告げる。
「ああ、そう言う意味ではない、こちらの考え事だ。
セイバーがこちらの陣営につくの賛成だ。
私は聖杯に興味が無いし、勝ち残れたらそれは君に譲ろう」
勤めて明るく言う。
「じゃ、セイバー。
その令呪、どうしようか?」
確かに、彼女の腕には士郎の腕が抱きしめられたままだ。
「いまさらあの神父に移してもらう気は無いわ。
どっかに埋めちゃおうか?」
「いえ、できればどこかに保管できないでしょうか?
戦争が終わった後にでも、返せるのなら、返したい」
凛は一つ頷くと、呪を一つ編み、魔術で凍らせた。
「保存一つでどうとでもなるわ、まあ、接合はやってみないとわからないけど」

三人はつれだって、もと来た道を引き返して行く。
「行きがけに、あなたの身の上聞きたいわ」
「では、真名も含めて」
……正義の味方の手ほどは、ゆっくりと検分しよう。
サーヴァント同士の戦いに首を突っ込んで、どうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
もしうまく逃げ推せていたのなら、出方次第ではかくまってやらないでもない。
やるべきことを前にして、二人の少女は意気も揚々足を運ぶ。


だが、アーチャーの思考は深く、イレギュラーだらけのこの戦争を案じる。

七騎のサーヴァント、そして今や都合六人となったマスターは今だ知らない。
彼らがやるべきこととは、すべての力を結集し。
立ちふさがる『正義の味方』を狩ることなのだ。


『apprehension』over
next session 

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