繋がる。断面が溶け、黒い義手と一体化する。
噴出する血液が、津波のように義手の胎(はら)に注ぎ込まれる。
急成長する球根のようだ。
血の流れは神経となって義手と俺とを繋ぎ止める。
生きている。
生きている。
生きている。
今までマネキンだった腕が、びくんびくんと呼応する。
この世から紛失した左腕が、カタチを持って蘇生する。

いい。
もう何もかもどうでもいいってぐらいご機嫌だ、やっぱり生身サイコーじゃん!
生きてるね俺、いますげえ生きている!

:D.D.D/石杖所在


指が月を指すとき、愚者は指を見る:7


 衛宮士郎が、剣をとり落とした。
いびつな長剣と刃の曲がった短剣、それは今まで戦っていた一組の相手を悼むかのように地面に突き立ち。
墓標として影を落とした。

 目の前に、体中を血液で染めた少女が倒れている。
 消え去った彼女の従者の代わりに、その身を引き起こそうかとも思ったが、
 あいにくと腕は剥き出しの剣である。
 触れれば傷つけるどころではすまない。
 無駄と知りつつも願う。
 誰か、目の前の少女を助けてやってくれ。
 めぐり合いが致命的に悪かっただけで、彼女はきっとだれかの善い人であったのだ、そう確信して剣に包まれた体は地面に倒れる。

 戦いなど、終わればどこまでも空しいものだ。
 敗北なら、それもひとしお------。


「泣いているのか、ならば始めから刃を交えねば良かったものを」
 躊躇なく衛宮士郎に近づくアーチャー。
「そしてあの狂戦士を救いたいと心変わりしたか、二者択一を迫られて、どちらを選んでも嘆くなら……」
 ブーツの底で動かぬ体をひっくり返すと、目から数本の針を落としている事に気づく。
「後悔するなら抗うな、反省するなら行うな。
まったく、いつもお前は無駄な努力の積み重ねだ、たとえ起源で体を変質させても、戦いに酔えぬなら剣など持つな。見ているこちらが情けなくなってくる」
「何を言っているのですか?アーチャー」
 アーチャーはいつもの皮肉気な笑顔でセイバーを見返し、聖剣の欠片と柄を要求する。
「上手く行くかはわからないが、修復を試みる。
私の判断が正しければ、接ぎ直すことも可能なはずだ」

 刃の縫い目に合わせ、剣先を叩きこみ、同じ場所に刀身半分が残った柄を突き刺す。
「……ぐがっ!」
「――――I am the bone of my sword.(この からだは けんで)」
 うめく士郎を尻目に、後は集中力が勝負だ、己の内に燦然と輝く星の剣を思い描き、握った柄に魔力を通す。
 加えて、衛宮士郎の体を炉の変わりに、溶かした刀身を心象にて打ち直す。
 大博打だ、元より複製作りたる自分の能力を無視した無謀な行い。
 ただ、自分より完璧な剣製を行える『今の士郎』の存在に賭けた。
 そして、自分は彼に負けず劣らず、無駄な努力の積み重ねを繰り返してきた大馬鹿者であるから。

「修復完了(トレース・オフ)」
 幾度も血を吐きながら、その妖精が成すべき大事を成し遂げる。
 否、彼らだけの力ではない。
「これは、私の鞘!?」
「ああ、引き抜いてみてくれセイバー。
これが後押しして、継ぎ直しが出来たようなものだ」
 彼自身すっかり忘れていた、衛宮士郎の体には、アーサー王の鞘が収められている。
 彼女を現界させるための触媒にもなったものだが、元は養父が炎の中で発見した士郎を助けるべく体に移植した、不死性を授ける神秘の宝具。

 剣は鞘にひかれ合う、数百年の月日を得て、再び己に収まった剣が欠けていることを知った鞘は、その刀身を自身が持てる奇跡で癒したのだ。
「ああ、元通りだ。
かつての剣と遜色有りません」
「ああ、ついでに鞘も返してもらおう。
もう二度となくさぬようにな、セイバー」

「ちょっとまってよ、アーチャー!
何でコイツが聖剣の鞘を持っていることわかってるの!?」
 蚊帳の外だった凛が問い詰める、だがしかしアーチャーは涼しい顔で、
「なに、気配でわかったさ、君も半分気がついていると思うが、私はそういう能をもつ英霊でね」
切り返した、それを聞いても納得がいかない遠坂凛、うかんだ疑問も交えてしばらく思案する。
 だが、それをさえぎるものが、足元に有る。


 始めは小刻みな振動であった。
 その大元は衛宮士郎、相変わらず剣達磨とでも言うべき異形で転がっていたのだが。

------それは世界の修正か。
それとも自身の意思なのか------

 士郎の体が出鱈目に修正を始めた。
 ひじの先から剣が生え、更にその先端から刃が生えた、首が逆方向に回り犬歯が伸び、下あごがはずれ舌先から指が生えその先々に装飾用の宝玉、肋骨が枝分かれして刃刃刃胴体が伸び柄を作り下半身は螺子曲がり足首から更に装飾背中から刃刃刃刃刃刃刃刃刃背骨がつきあがり柄を守り足首がその末端に生え刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃、刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃刃。
 ……それはまるで、死体で剣を創るかのような変貌。
 いっそ丸ごと剣にでも成ってしまえといわんがばかりに。

「アーチャー、鞘を士郎に返してください!」
「だめだもう遅い。
ここまでいびつな変形を始めたら、もはや人間として復帰することなど不可能だ!」
 先の起源の暴走など生ぬるい、これが衛宮士郎の本性か。
 剣は剣としてその存在、かくあるべし。
 世界が彼の身を統べる、体は剣で出来ている、ならばお前は剣だ、剣になるのだ。
 もはや誰も止められず、またその術も持ち得ない、衛宮士郎はゆっくりと、その身に激痛を与えながら剣に------

「うっだらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 そのとき、太郎が脱いだ。
 学ランを衛宮士郎の慣れの果てに掛け、たった今押しつぶされた腹いせのようにそれを叩きまくる。
「世界精神間結合完了原子記憶抽出開始マーベラスファンタズムフルドライブ書き換え書き換え書き換えぇぇぇぇ!」
 突然太郎が鼻血を吹く、頭が発熱しているのだろうか顔も真っ赤で目が血走っている。
 否、脳に走る電流が目からほとばしるかのように、瞳孔が金色に染まり輝く。
 おかしい、この存在は常識を逸脱している、いやそれは出会った瞬間わかりきっていたことだったが。

 そして、いまだに燃え盛る炎でも叩き消すかのように腕をを振り下ろしつづけるこの男、止めるタイミングをどこにみつけだせようか。
「おしまい」
 下敷きにした学ランを剥ぎ取る、するとその下には、鉄も鋼も何もない。
 見事なマンガ肉が鎮座ましましていた。
 ただその勢いに乗せられていた三人は、手品めいたその行動に感心するばかり。
 というか、何故に肉?
「ちょ、ちょっと、士郎はどこに行ったのよ!」
 いいかげん異常事態になれたのか、現実に復帰した凛が問い詰める。
「どこもなにも、これが衛宮士郎さ、正確に言えば核たる剣を収めていた、たんぱく質製の鞘だ。
ずいぶん溜め込んだもんだな、二十キロくらい有るか?」
 まんが肉の骨を持ち、検分しながら返答する。
「つまりだな、起源を受け入れたものがまっとうな人間社会に溶け込むのはほぼ無理だ。
ましてや士郎の属性は剣、無機質だしな。
たんぱく質から四肢を持った人の皮を創って、それをかぶっていたわけだ」
 さて、と一つ咳払いし、そのマンガ肉を高々と持ち上げる太郎。
 そして生きも絶え絶えのイリヤの体に近づき……

「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「へぶっ!」
 マンガ肉を思いきり、その小さく力ないからだに叩きつけた。


「ちょっと……なにするのよ。
こっちは、静かに……死んでやろうと思ってるのに!」
「だまらっしゃいこの自殺願望者、リストカッター!
サーヴァントを失ったからなんだ!アインツベルンの狒々爺ドモが怖いのか!?
これから士郎が輝く明日を生み出そうとしてるのに、お前がそんなんじゃ奴もやる気をなくすのだ。
生きろ、これからこのマンガ肉を使い、お前を人間として生まれ変わらせてやる!」
 その言葉を聞き、凛は気がついた。
 あのバーサーカーのマスター、ホムンクルスである、と。

 それはすなわち人工生命、あの規格外のサーヴァント、ヘラクレスのバーサーカーを従わせるにはまっとうな人間の魔術師では魔力が足りない。
 ゆえに、魔術師の一党であるアインツベルン家はまるで道具のように、マスターを創ったのだ。
 まるで、使い捨ての道具のように。
「まちなさいよ、そんなの無理に決まってるわ。
ホムンクルスとして生をうけた以上、輪廻転生でもしない限り人間の体を手にいれるなんて!」
「やってみなけりゃわからない、無理を通せば通りが引っ込む。
かつて破損した他人の体を、創生の土で修復した事例があるからな。
しかもこれは衛宮士郎が人間として築いたたんぱく質の塊、有る意味それ以上に人間の体になじむだろうし、わが超能力を持ってすれば、DMAレベルで人体を創りかえるのも不可能ではない。
ましてこの間人形師の元でノウハウも得た、準備万端抜かりなし。
さーいくぞーマーベラスファンタズムフルドライブルァァァァァァァッ!」

 そして、太郎は思うがままに、幼女の体をこねくり回した。
 分子を超え、原子中性子レベルで万物の構成を流転させる。
 その原理はもはや魔法レベル、原子情報の消去たる究極の破壊魔法『青』に負けず劣らず。
 恐るべし超能力『一物王』だがしかしその術を行使する姿は……

「良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか、あそーれ良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないか良いではないかっ!」
「い〜や〜」
 幼女に淫行している様にしか、みえないのであった。
「凛、あんなのありですか?」
「うーん、まるでハンバーグこねてるみたいね」
 後頭部にでっかい汗をたらしながら見守る凛とセイバー。
 だが、施術が佳境に入り、あっちこっちをもみしだく太郎の手が光の速度を超えるとそれすらも危うくなってくる。
 だがしかし、鷹の目を持ち動体視力も抜群と表されるアーチャーだけは見て取れた。
(……肉球?)
 太郎の手が、猫まっしぐらに変貌を遂げる様を。
 もちろん、馬鹿にされるので2人には言わない、錯覚として記憶の底にしまっておく。


 人が死を迎えるに、最悪の状況である。
 見知らぬ男に体をまさぐりころされる、というかその手はマッハを超えたあたりから鋭利な真空の爪を持って自身の体を切り裂き始める。
 そのままなら一分と待たずに自分はミンチになるだろう、だがしかし。
 砕けた先から自分の体が再生を始める、四肢が臓腑が砕けた先から補充される。
 その気持ち悪さは、死ぬか狂うかしたほうがマシだった。

 施術が終わる前に、イリヤは自身の意識を手放した。
 ------奴当たりなんか計画してごめんなさい、シロウ。


「完成である、これで人生五十年は持つな」
 鼻や耳から蒸気を放出し、熱された脳みそをクールダウンする太郎。
 その尋常じゃない得体の知れなさ、キモさに一歩下がって対峙する魔術師と英霊2人。
「そろそろ去るが何か質問あるか?つまらない質問なら答えないが」
 意を決してセイバーが聞いた。
「貴様は一体、何物だ」
「あーそれつまんなーい、まあセイバーがセイバーと呼ぶのはあれだしな、許す。
私のことは太郎と呼べ」
「アンタ人間?」
「それもつまんなーい、ご想像にお任せします」

「では、太郎といったな、貴様とその一党の目的は何だ?
衛宮士郎と同じく、聖杯戦争の阻止、というわけではなさそうだな」
「その質問、いいね。
まあ私のうだつの上がらない仲間達、インタラプトSの意味を和訳してみたまえ」
……インタラプト……妨害する……すなわち!
「おじゃまサーヴァント!?」
「いえーす、まあ諸君を妨害するのは方針としてはあってるかな。
だが我ら7人目的はてんでばらばらでね、まあバーサーカーのインタラプトS、衛宮士郎の目的は戦争阻止。
私は都合が言いからそれに手を貸しているだけさ」
「では太郎、貴様の目的とは、一体何だ?」

 口元をゆがめる太郎、その真意を問いただされ、とても嬉しかった。
 太郎は、とても嬉しかったのだ。


『絶救想覇1』out
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